こども革命独立国

僕たちの「こども革命独立国」は、僕たちの卒業を機に小説となる。

第十五章 不屈の抵抗大作戦(前)

  テツオたち4人にとっては、高校3年、この島でともに過ごせる最後の真夏がやってきた。セミの声も甲高く、天をも貫く勢いで、それが真夏の命の躍動を、いっそう高めていきそうだ。

  たびたび飛来をしてきたオスドロンはもはや見られず、ともすれば権力は、この島の軍事基地化を見逃しているかに見えた。

「いえいえ、この国のやることですから。ねらった弱者は何が何でもタタキ潰す構えでいますよ。しかも改憲後のこれからは、いきなり治安維持を銘打って、暴力=軍事力を行使の形で・・。

  ボクが思うに、彼らは空からの攻撃には失敗したので、次は必ず海からやって来るハズです。」

  そう言うタミは、テツオが操る小船に乗って、彼と一緒に島の周囲を確認している。彼らは所々で小船を止めては、島の形を改めて確かめまわり、嘉南岳を中心とするこの島は絶壁で囲まれてるので、海からの攻撃=上陸作戦がなされるのは、やはり県に面している納瑠卍の浜しかないと思うのだった。

 

  あのオスドロンの来襲以来、島のだれもがタミが確信するように、権力は己にはむかう者に対して、何が何でも潰しにかかってくるはずだと予見した。だからこの嘉南島の防衛策は、非暴力での抵抗を基とはしながら、アイ氏プロデュースのDVDの印税や、キンゴが発した“発狂した官僚”のインターネットBGM選手権の賞金などを経費としながら、着々と進めてこられたのだった。

  そして真夏がやってきて、この島の“不屈の抵抗作戦”と銘打たれた防衛策のDデイが迫ってきた。それは島のオバアが、“狸が化けたというサイコロ”(1)を振り、その賽の目から、“七転び八起きの末に、三度まわってバンザイの千手観音‘五’で止まった。さすれば来る8月15日、あの敗戦の因縁の日に国防軍がやって来る!”と予言した、まさにその日が近づいた-ということなのだ。

「その日はちょうど恒例の、放射能汚染地からの“夏休み保養キャンプin嘉南島”の真っ最中。しかも今年は“子ども革命独立国”の3周年記念の節目、ブルーノ氏によるチャリティーコンサートin納瑠卍浜の当日にもあたっている。だから、なじみの参加者も多いうえ、いつも応援してくれている漁村のみんなや、周辺各地の原発差し止め裁判の原告やサポーターたち、反戦反核・反原発・反米軍基地の活動家の志士たちや、ボランティアも大勢来る予定だから、国防軍を迎え撃つには不足はないな。」

「また、このブルーノさんのコンサートは、あたし達のDVDをプロデュースしてくれたアイさんも、インターネットで世界に配信するというし、ともすればこの“不屈の抵抗作戦”が世界中の有志のメディアに中継されて、世論を味方に同時行動“連帯”が、期待できるのかもしれないよ。」

  理事長タカノと英訳ブログ発信役のミセス・シンのこの言葉が、Dデイに首尾よく卒なく備えてきたこの島の、自信と矜持をよく物語っているようである。

 

  その防衛策を仕切ったのは、ヨシノの弟タミである。タミは、テツオたちの卒業と入替に、他の数名の自主避難者=原発難民の子たちとともに、来年この島へと転校してくる予定である。だからテツオにとってタミたちは、まさに第二期生の後輩たちということなのだが、タミがここに来るまで紆余曲折はあったものの、最終的には転校を決意してくれ、しかも受験準備で忙しい姉ヨシノと義理兄のキンゴにかわって、自ら“本島防衛”の参謀役をかって出てくれたのだった。テツオたちには、この島を継ごうとするタミのこうした成長ぶりに、多いに期待したい所なのだが、これはオタクの気のあるタミにとっては、その軍事オタクぶりを優位に活かせるイイ機会でもあるようだ。

 

  南方系と思えるくらいクッキリとした目鼻立ち-タミは姉のヨシノに似るよりもより端正な美を放ち、弟とはいえ背はすでに姉と並んでテツオよりやや低いほど、自主的な筋トレで体格的にも充実し、しかも利発で物怖じせず、はっきりもの言う性格で、シャレのセンスも不足はない。

  だが、3.11のトラウマはタミにとっても例外ではなく、それは姉のヨシノより深刻らしく、汚染で漁場を追われたせいか、両親の漁師という生業と心身の故郷である海そのものに、トラウマを持ってしまったとのことで、これが姉ヨシノには大きな悩みなのだった。ヨシノはそれで、学校にもなじめず、一人で居勝ちなメランコリーな弟タミを面倒見ながら、時おり島に連れてきては、テツオにもそれとなく相手をしてもらっていた。テツオはテツオで、ヨシノの仲のよい姉弟ぶりを羨ましいとは思いつつ、最初は他人に用心深げなタミに対して、テキトーに相手をしていたようなのだが、不思議とタミはテツオには好感を持ってくれたようである。そしてそれは、テツオがある時タミに対して、

「学校に行きたくないなら、行かなきゃいいさ。友達なんか要らないのなら、無ければいいさ。」

  と、彼がやってきたままの本音を語ったことにより、ますます確かになったようだ。

  だからテツオは、今年は島へと来るタミに、時おり田畑を手伝ってもらいながら、自分が手掛けた島の農を継いでくれたらと思い始めていたのだった。それである時、タミに-島に転校する気はないか-と、それとなく彼の思いを尋ねたところ、タミは意外にもこう答えた。

「兄さんのそのお気持ち、とても有難く思います。ボクも本当はこの島と島の学校が好きなんですけど・・、でも、ボクには今、カノジョがいるんです・・・」

  それで話を聞いてみると、何でもタミの彼女とは、彼と同じ高校の女生徒なのだが、タミはできれば彼女と同じ学校にいたいんです-と告白をしてくれたのだ。しかし、タミの悩みとは、彼の今のヘンサ値では、彼女が進む進学クラスに到底入れそうにない-ということらしく、実はこれが彼のメランコリーの本当の原因なのではと、テツオには思われた。

 

  でも、テツオは、実の姉にも義理兄にも打ち明けてないこんな話してくれた、タミがいっそう愛おしく感じられた。それにテツオは、タミにこの時も自分のことを“兄さん”と呼んでもらえて、これがまたとても嬉しい気がするのだ。テツオは母から一人っ子だと言い聞かされて育ったので、“兄さん”と呼んでもらえること自体が、彼の喜びなのである。最初タミは、テツオさん、キンゴさんと呼んではいたが、二人で農をするうちに、タミは自然とテツオのことを“兄さん”と呼ぶようになっていた。

  今年の初夏から夏にかけて、テツオは彼が苦労してきた畑作業や田植え仕事を、タミの是非にという希望で時おり手伝ってもらっていた。タミはどうやら島のブログを熟読しているようだった。

「あれって、たしかにキンゴさんの文体ですけど、内容は“兄さんの思い”が多いと感じていました。それでこうして実際に農作業をしてみると、兄さんの考えがよく伝わってくる気がします・・・。」

  初夏の日差しと気温とが、上がり調子で夏へと近づく田んぼの中で、正午の陽を受けながら、テツオと同じ麦わら帽子に白い長袖シャツ姿で、中腰に苗を手にして振り返りつつ、タミはテツオに話しかける。タミがテツオに投げかける、信頼と好意に満ちた眼差しが、陽の光と、その水田の反射とともに、それが純粋であるだけいっそう、テツオには眩しく感じられるのだった。そしてテツオは、自分はタミに、どれだけ応えてあげているのだろうか-と、そんなことも自問した。テツオはかつての彼と同じように、3.11で故郷を追われ、友を失い、慣れない先で差別とイジメと孤独とに耐えてきたタミのことを思うほど、そしてタミが自分を慕えば慕うほど、彼のためになってやりたいと思うのだった。

 

「兄さん、ここは用心して下さい。父も以前、この辺りは浅瀬とはいえ、所々で深くなると言ってましたし。クラゲには、くれぐれも気を付けて・・・。」

  島を巡ってきた二人は、上陸作戦が予想される納瑠卍の浜を前に、浜に面した遠浅の深さを確認してまわっている。小船の上で心配そうに見守っているタミを背にして、テツオは素潜りを繰り返し、水深を測りつづける。それで何とかこの遠浅の水深変化の裏付けができたところで、二人は浜辺へかえっていく。そして海面ごしにキラキラと砂地が透けて見えてきた所で船を止めると、テツオはもう一度海へと入り、船上にいるタミの方を、見上げるように振り返った。

「タミ。もし君さえよければ、俺といっしょに、今から海に入ってみないか? ここなら深さもせいぜい膝まで。安全だし、海流も淀んでないから、見てのとおり、そんなに汚染はないと思うよ・・。」

  計測と記録係りに徹するタミは、海水パンツにTシャツを着たままだったが、正午の陽に砂地も輝く海面から、輝くような笑顔で誘うテツオを見つめて、何かを逡巡するかのようだ。

  タミは、今日のこの本島防衛=上陸作戦に備えての計測作業というものが、テツオの協力を前提とした自分からの提案であることを、あらためて意識した。そして彼は、おそらくは姉ヨシノからそれとなく言われたテツオが、自分の海へのトラウマを何とかしてやりたいと思っていたのも知っていて、兄のこうした優しさが、身に染みてもくるのだった。

「タミ。もう俺の言ったことは気にするな。自分の考え、思うことを第一にな。じゃあ、これから帰って、計測結果をまとめようか・・。」

  タミが海に入らないと思ったのか、テツオが小船の縁にかけていた自分のシャツを取ろうとした時、タミは着ていたTシャツを脱ぎ、テツオに向かって上半身の裸体を見せた。その鼓動の高まりに胸元が波打つように見えたテツオは、さすがは漁師の息子だけ、海でなくとも鍛えられた綺麗な体をしていると、大空を背にした船上のタミの姿を、その目で眩しく感じ取る。

「兄さん・・、じゃあ、今からボクを、そこで支えてもらっても、いいですか・・・。」

  そう小声でささやくタミに応えて、テツオは望外の喜びといった感じで笑顔でうなづき、両手を広げ、両足を踏みしめながら、船から乗り出してくるタミの体を上半身いっぱいに抱きかかえると、彼を無事に船から降ろした。彼ら二人の足裏に、浅瀬に広く打ち寄せられた玉砂利をつかもうとする音が、互いにギリリと響いてくる。

  テツオが抱いた腕の力を緩める前に、タミの小声が、静かに彼の耳元へと届けられる。

「兄さん・・、一度だけ、一度だけでいいんです。もう少しこのままで、いてくれてもいいですか・・・」

  テツオにとっては・・、未だパンツはあるとはいえ、これが裸のまま二人で抱き合う初めての経験だった。おそらく、タミもそうだろう。だがテツオには、今までタミが寄せてくれた彼への好意と信頼のことを思うと、これは特に違和感なく、むしろ自然に思われた。

「わかった・・・。いいよ、タミ・・・。ありがとう・・・」

  二人はその体温の暖かさと、しなやかな筋肉のうねりとうずきを、お互いの腕と胸とに感じ取る。波打ち際に打ち寄せていく波の音が、はねあげる飛沫とともに、いっそう小高く聞こえてきそうだ。

  やがて二人はお互いに力を緩めて、目と目を合わせて向きあった。互いの目に涙の光を見とめた二人は、そのままゆっくり唇と唇とを重ねていく。正午の陽が、二人の頭上へさしかかり、波打ち寄せる甲羅模様の水面と、その底でひしめき合う玉砂利の光とを、交互に反射させながら、青年二人の向き合う鼻筋、唇と唇とのシルエットを、まるで切紙の影絵のように鋭角的に映し出す。

  二人はそれで、互いの背筋から首筋へと、背面から手をはわせ合い、テツオはここで思い余って、タミの後頭部から髪の毛へと手をやっては、風とともに、とても優しく、撫でてあげた・・・。

  匂うような潮の香りが、辺り一面にたちこめて、二人を包み込んでいこうとするなか、二人は互いのペニスとペニスが勃ち上がり、その圧力がパンツを押し上げ、竿と竿とが先端の亀頭にかけて、触れ合い押し付け合っているのを感じる。二人は互いにパンツを下ろして、足もとまで脱ぎ落とすと、タミはパンツを海面から拾い上げ、小船の中へと放り込む。水しぶきが、サッと二人の顔にかかった。

  青年二人は、互いにもはや抗する術なく、赴くままに、抱き合いながら波打ち際までいざり進むと、玉砂利を背に倒れ込む。かさね合う体と体、こすれ合う乳首と乳首、手の指先から腕を通して背筋から太腿そして長い足の爪先に至るまでからませ合って、二人はもつれにもつれていく。

  タミは先輩テツオが、“ここをああしてこうして”と求めるのに応じていくうち、その黒い毛の茂る脇から脇腹さらに太腿、そして両胸の筋肉をもみさすっていくうちに、テツオが今まで聞いたことのないような甲高い声を上げ、どんどん女のようになっていくのが、まるでまな板上をのたうち回るサカナのように思えてくる。タミはこの時まだ女というものを知らなかったが、彼はもとより漁師にして魚屋の子供。だからおそらくそのように見えたのだろう。

  そして二人は、寄せ打つ波と玉砂利との戯れが耳にこだまし、互いの激しい息づかいが喜びの叫びへと昇っていくなか、互いのペニスを、足らなければもう手と手で補い合おうとするのだが、テツオが“ここがあたしのトドメなのよ”といった感じで指してきた彼の乳首を、タミが舌先でそのまわりの毛をからませながら、そしてその乳頭部を転がしながら、右や左と丁寧に吸っていくうち、テツオは、この時ばかりは勃ちに勃った彼のペニスがタミの茶色く逞しい太腿にわずかに触れたそれだけで、青天をつんざくような金切り声を上げると同時に、先にイッテしまったのだった・・・。

  これは先輩としてなのか、あるいは情けないことなのかと、テツオの目に当惑の色を見とめたタミ。テツオはテツオでタミのその目が“兄さんだけ先にイってズルいっすよ”と言っているのがよくわかる。

  タミは同じゲイあるいはゲイの要素のある男でも、女形と男役といったような温度差があるのを悟って、今や恥ずかしがるテツオの右手を取り上げると、その筋ばしった手の甲にキスをしてから、自分自身の玉の浦から亀の先まで愛撫させるとそのままイッて後を追い、テツオの顔を立てたのだった。

  寄せては返していく潮が、二人が互いに下腹部へとかけ合った精液を、もとへと戻していくように洗い流して、海の中へと還していった。

  ふいにタミが、小船が沖へと流されていくのに気づいて、テツオが呼び止めようとするより早く、キュートなお尻の残影を映したまま海の中へと飛び込んだ。タミは、すっかり海へのトラウマを払拭したのか、クロールで小船まで追いつくと、器用に船へと乗り込んで、浜辺にいるテツオのもとへとかえってくる。タミが振るう青と赤の二人のパンツが、太陽の白色光にはためいて、船上に立ち上がった彼のヘアーの黒点が、そのトリコロールに差し色的な効果をほどこし、同じく浜辺で立って待つテツオのそれと対称となり、空と海とをカンバスに、青年二人の裸体美の画竜点睛が成されたようだ・・・と、テツオには感じられた。

 

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  その晩、テツオは自分の部屋で、ドビュッシーの『海』-その第二楽章-を聞きながら、彼とタミとの今日一日を回想している。テツオは、これが今さら“罪”なんて、考えさえも及ばない。彼はむしろ、-今日一日僕ら二人は、これが輝かしい青春の一ページであることはいうまでもなく、今聞いているこの曲みたいに、空と海、風と波とに、あらゆる自然というものに、まさしく生・性・美・愛は一致するというように、祝福されていたのである。二人にとって今日のこの日は、あまりにも自然のままの“人生の正午”であったことは間違いない-と、自分はもとよりタミもそう思っているに違いないと、確信をするのだった。

  しかし、テツオはまた思う。

  -では、ユリコのことは、そしてタミにとっては彼女のことは、互いにいったいどう考えればよいのだろうか? 僕らは童貞を捨てたのだし、これでもう“処男”ではないのだから・・・-

  しかし、彼はタミとの行為が、お互いの彼女に対する裏切りとも思えなかった。同時並行でされ続けるのならともかく、これはタミが言った通り、“ただ一度だけ”のことなのだから。

  でも、ということは、同性の性愛よりも異性の性愛が優先されるということは、やはり性は“生殖”のためなのか・・と、テツオは思う。しかし、今や彼には-性は生殖のためだけにあるのではない-と思われるのだ。それは彼らの進化論の“性は光のセンサーにして環境変化のセンサーだ”ということにもよるが、こうして実際やってみると、同性との性愛あるいは性行為は、それが人猿のみならず陸上や水中の他の多くの動物たちにも見られる通り(2)、とても自然なものであり、それどころか自然に祝福されるものでさえあると感じられたからである。

  それに彼には、男は-婚姻前に買春なんかで筆おろし、童貞なんか捨てちまえ-といい加減なのに対して、女には厳密な“処女”が要求されるのは片務的な不平等だし、また、レイプでも法的に不起訴や無罪となるような、サピエンスの因習や悪弊は受け入れられず、この性=SEXゆえにゆがんだ進化を遂げてきたサピエンスの観念はもう参考にさえもならないと思われるので、彼が今考えているような同性・異性の性愛の倫理的なものについては、新人類ニアイカナンレンシスへの進化に向けて、また新たに考え出す必要がある-と、テツオには思われた。

  また、テツオにはもう一つ、気になることが残っていた。それはタミが別れ際に、彼が“ただ一度だけ”と言ったのを振り返り、“ただ一度だからこそ、かえって永遠になれるのです”と言い残したことである。テツオはタミのこのセリフを、-お互いに彼女がいるので僕らはただ一度の関係なら許されるのでは-との意味に受け取り、それで互いに納得して最後までイッたのだった。そして互いの性的関係をただ一度だけとすることで、もうこれ以上やりあって互いに執着することも、飽きたり汚したりすることもないのだから、一番いい時の思い出だけが永遠となる-と、その意味にも受け取れた。

  しかし、“一度の相互の関係は永遠である”とのタミの言葉に、テツオはなおもこだわっている。

-タミがこの言葉を、どこまで深い意味で言ったのかはわからない。だがこれは、性愛以外にももっと広い意味があるかもしれない。いや、もしかして、これを示す何らかの自然の仕組みがあることで、そもそも“性”なるものが出現したのかもしれない。だからまだこのことは、これからも探求する必要があるだろう-と、テツオは思ったのだった。

 

  さて夏休みとなり、この島の恒例の“夏休み保養キャンプ”が始まった。自給のめどが立って以来、この島では放射能汚染地からの親子ともども保養を受け入れてきたのだが、今年は3周年記念のコンサートもあって、準備に何かと忙しい。木造校舎は宿泊施設に、喫茶室は食堂ともなり、掃除や設営、食事の準備やなんやらで、島は大いに賑わっている。いつも応援してくれる漁村の人たち、そして今やブログを通じて知り合った多くの支援者・ボランティアらが手伝ってくれるのだが、その中には、タカノ夫人が共同代表つとめている“Veni女の会”の面々の姿もあった。

 

  -あの女、また来てやがる・・・-

  ボランティア支援のため、表立って文句は言えない。しかしテツオたち4人にとっては、どうしても受け入れられないある人物がいるのである。

  その人物の名は、“羅衆夫人(らすふじん)”。年の頃はタカノ夫人の年下の、中腰中背のオバサンである。だが、彼女は自作のお名刺に、やれ環境保護だのライオンズだのジェンダーだの循環型社会だの市民による政治改革=野党団結の代表だのと、狭い紙面にゴテゴテとつらねるほどの広いお顔で、自ら県の“市民運動家第一人者”を自称している。そのくせ中央駅前一等地で、明らかに金持ち相手に、美白、シミトリ、シワトリの、ビュウティーサロン“マダム・ラッスゥ”を経営するだけ、化粧がブ厚く、総白髪を金パツッぽく染めた髪、段腹も隠しきれない金銀ボタンのダブルジャケット、光沢めいたゆるゆるパンツの派手はでコーデ、そして古代エジプトに見るような黒塗り縁取りアイメイクが、テツオには気に入らない。彼はそんな外見チェックを入れるのだが、4人にとっては、彼らは騙され続けてきたので、人を見る目が研ぎ澄まされて、怪しく、ウサン臭い人物は、ファンデやコーデに関わらず、それ特有のニオイがする-ということなのだ。

  しかし、こんな羅衆夫人、よりによって“Veni女の会”のメンバーである、“プチブルマダムの会”の代表でもあるという。テツオは何でこんなクサイ人物が、Veni女の会を通じて自分たちのこの島に来るようになったのか-そこんところが知りたくて、ある日喫茶室にて準備の最中、こうした事情に詳しいらしいミセス・シンに、それとなく聞いてみた。

「テツオ・・、あなた達は卒業に向け、渡航や受験の準備やらで大変だし、心配をかけたくないから黙ってたけど、あなた達が察する通り、あの羅衆夫人、お化粧以上にクサイのよぉ!

  説起来話長、話せば長くなるんだけど、あの3.11以来、烏合離散の市民運動、それを小異を捨てて大同につかんと、いろんなグループ参加型の、いわゆる“ゆる~いつながり”で、“Veni女の会”ができたのだけど、それに“プチブルマダムの会”略して“プチダム”が、加わってきたのよね。」

「“プチダム”・・ですか? ポツダムではなく・・?」

「そう、プチダム。あたし達はもう“ポチダム”って言ってんだけど・・。要はこの会、市民運動とはいっても、所詮は羅衆夫人が経営するビュウティーサロンに出入りするカネ余り有閑マダムの、被災地支援や途上国援助と銘打った“あら可愛そう、あたし達もイイかっこうしたいから、余りものを恵んだげる”-というみたいな、よくあるいわゆる“自己満足的ほどこし趣味”の一団なのね。それがだんだん、実家は資産家、夫は落ちぶれたとはいえ弁護士の、一番のカネ余りである羅衆夫人のカネがもの言う私物化集団になってしまって、何でも羅衆夫人いいなりのポチダムってなったわけ。」

「いいなりなんて、家畜じゃああるまいし・・。まるでニワトリ、いや、シワトリ、あるいは、シミトリ、とでもいうのでしょうか・・・」

「羅衆夫人ってさ、地もピーでもないくせに、県のあんな超一等地で金持ち相手に店を構えて、そこがプチブルマダムのたまり場となっていたのが、夫人がプチダムへと入り、市民運動家を自称するきっかけとなったそうよ。そして彼女の夫の羅衆武人っていう弁護士、かつては人権派っていわれていたのに、坊ちゃん育ちで脇が甘いのを見透かされたか持ち上げられて、変に色気づいちゃって県議を何期かやったあと、シワトリ、シミトリ、ドミトリどころか、“鼻”こそは落ちなかったが(3)、髪といっしょに生気も精気も抜け落ちちゃって、今や原発差し止め裁判の電力会社側の弁護士に雇われてるっていうんだから、人権派も落ちたもんよね。それに第一、市民運動家を自称しながら、その夫が原発稼働の電力会社側にいるってこと自体がさ、大問題だとあたしは思うね。

  でさあ、夫人はこの夫との仲が冷え切っているのをいいことに、夫の名前で勝手にいろんな法律事務所に声をかけては、数余りでヒマな弁護士はべらして、サロンで“サルでもできる憲法のお勉強会”なんかを主宰し、自分の権威づけに利用しようとしていたところ、弁護士からのこぼれ話か、どの地域にも必ずある“ゴミ問題”に首を突っ込み出したらしいの。

  それでぇ、この県も例外ではなく、各地のゴミ処理施設の老朽化にともなって、県がその財源不足を口実に、国が多額の補助金をちらつかせるのに飛びついて、近隣の市町村共同で、カネダケ製の“広域大型ゴミ処理施設”を、この島の対岸の漁村の裏山ひとつを越えた隣の県との県境に建設するっていう話、テツオ、あなたも聞いてるでしょ。」

「ええ、それは確かに・・。それで、漁村が施設の直の風下にあたっていると猛反対して、ヨシノのママが共同代表つとめている広域ゴミ処理施設建設反対同盟が結成されて、この島も賛同人になっているというところまでは聞いていますが・・・。それとあの羅衆夫人に何か深い関係が・・。ゴミを護美というだけに、ビュウティーサロンが隠れ蓑になっているとか・・?」

「実は、さっきの“サルでもできる憲法のお勉強会”は表向きで、この会の内容は、人権問題を環境問題へとすり替えたゴミ問題の勉強会らしくって、しかもその本命は、このカネダケ製の“広域大型ゴミ処理施設”の推進と売り込みにあるらしいのよ。つまり、羅衆夫人は、自分のサロンでタダでカフェ付きお菓子付きと、常連以外に多くのマダムを呼び寄せておきながら、やってることはゴミ利権の一翼を担っているということなのね。それは彼女のサロンが駅前の超一等地、あのメラニー議員の夫が役員やっている不動産会社のビルにあることから探っていって、見えてきたことなのね。」

「なるほど・・。だから羅衆夫人は、メラニー利権の一環であるゴミ利権に関わってるってことですか。」

  と、話しがここまで進んだところで、ミセス・シンはその声をやや低めて、テツオに語る。

「でね、ここまではよくある話で、問題はむしろここからなのよ。

  この島は今、オスドロンのヘリパット-米軍への基地供給地として狙われてるってことになってて、あたし達は防衛準備をしてるんだけど、この島は風が強くて不安定な軍用機の発着には適さないし、また当のオスドロンはもう偵察にも来ないじゃない。ということは、米軍への基地提供ということ自体が、実はダミーだったのではないだろうかと、あたし達は疑ってんのよ。

  つまり、軍事施設もゴミ処理施設も、最初は必ずほとんどの住民には反対される。だからまず地位協定を利用して米軍への基地差し出しとしておけば、法的には保護されないから工事着工強行できる。そこでゴミが多量に搬入できる護岸工事が済んだところで、軍事基地から本命のゴミ処理場へと転換させる。どちらもカネダケが請け負うのだし、カネダケが儲けるのには変わらない。それで周辺住民は、どうせゴミ処理場はいるのだし、米軍基地よりはマシと、これで反対派を半減させれる。

  この広域大型ゴミ処理施設の県境の予定地って、隣の県の水源地でしょ。だから隣の県民たちは反対する。しかし、その予定地が白紙撤回されさえすれば、水源さえ守ればいいと、また反対派を半減させれる。今は反対している漁村も、これでゴミ処理場の風下からは外れるからと、これでさらに反対派を半減させれる。

それでいよいよゴミ処理施設を、今や反対派激減の末、この島へと持ってくる。最初からこの島をゴミ処理施設の予定地としてしまえば、海洋生物や海の環境保護やらでややこしいから、四面楚歌となるように、わざとこんな迂回したシナリオを準備したってことなのよ。」

「・・つまり、各地のゴミ処理施設の老朽化を口実に、近隣の市町村共同という事にして、国の多額の補助金目当てのカネダケの利権のために、米軍への基地提供をカムフラージュに、その広域大型ゴミ処理施設を建設するため、最初からこの島に狙いを定めていた-ということですか?」

「そう、そういうこと。いや、実は、あたしもタカノさんたちも、ずっと不可解だったのよ。なぜ、あのプチダムのカネ持ちマダムが、被ばくはもう賞味期限切れというみたいに、被ばく問題を疎んじてるのに、どうしてこの島にボランティア面して、何回もやってくるのか。それで逆に探りを入れようと、あたし達はこうしてわざと羅衆夫人とプチダムたちを、泳がせてきたってわけね。

  それで、ヨシノたちの話によると、あの羅衆夫人、ボランティアで知り合った漁村のおばさま達相手に、99.9%シミトリ・シワトリできますメイクを宣伝しては、ビュウティーサロンにタダでカフェ付きお菓子付きで招待して、この広域大型ゴミ処理施設を、県の財政難のなか燃料費も建設費も運営費もバカ高いというのにさ、“最新技術でゴミをまさに資源化して再利用する、エコの時代に相応しい資源循環型ゴミ処理施設”と銘打っては洗脳し、反対派切り崩し工作も始めていたってことなのよ。

  それと、これはユリコの話だけど、あの羅衆夫人、あなた達とは今まで目も合わせようとしなかったのに、最近、なぜかユリコにだけは、ユリコちゃん、ユリコちゃんと、馴れ馴れしくも話しかける。ユリコはこれを-あの夫人は私をオバアの養女と思っているんじゃないだろうか-と推測している。オバアはこの島の地権者だし、養女には相続権があるからさ、羅衆夫人はそんな所まで探ろうとしているのでは-と、あたし達は思うのよね。」

  ミセス・シンはここまで話すと、じっと聞き込んでいたテツオに向かって、ここは決意をこめた強い目線で、新たな話を持ちかける。

「でも、この羅衆夫人のやり口は何も特異なものじゃなく、3.11後により顕著になった、“味方のフリして近づいて、敵の方へと売り渡す”という権力の常套手段の一つなのね。

あなた達もあたしらもすでに経験してきたように、3.11など国策の無策でもって多くの犠牲が見える化すると、今までパンとサーカスで飼い慣らされ、ボーッと生きてた人民も、怒りや告訴で結束し、権力に抵抗をし始める。権力にはこれが一番怖いのだけど、露骨に弾圧しちまうとかえって抵抗は友を呼んで、人民を強くしてしまうから、権力も学習して、力による弾圧よりも人民を懐柔したり分裂させる工作に重点を置くわけよ。人民に催涙ガスを浴びせても、それはアリに殺虫剤をかけてもかけてもまた出てくるようにキリがないから、アリ蜜でおびき出し、持ち帰らせてアリの巣ごと全滅させようとするのに似て、市民運動団体に、出所はよくわからないが多額の寄付金渡したりして、カネをめぐる内部分裂を誘発させたり、あるいはカネ持ちでヒマ持て余し、そのくせ世間への色気がぬけず、イイ恰好しいの目立ちたがりで実は頭はカラッポみたいなおバカさんに目をつけては、“地球温暖化対策には原子力こそ最適です”みたいな感じで洗脳し、工作員に仕立て上げ、市民運動にくさびのように打ち込んで運動自体を解体させる-羅衆夫人はその典型だと思うのね。

あたし達も羅衆夫人に、決してこのまま手をこまねいているわけではない。テツオ、あたしがあなたに言いたいのは、ここまで夫人に尻尾を出させたその上で、羅衆夫人の一派めらを、それこそ公衆の面前で、活動のウソと矛盾を一挙に暴いて一網打尽にしてやろうと、そしてこんな手口そのものが二度と使えないくらい徹底的にブッ潰してやろうじゃないのと、あたし達はこの島の防衛策に次ぐある作戦を考えてるッてことなのよっ!」

  ここまで話して親指立ててポーズするミセス・シンに、テツオは思わず賛同する。

「シンさん、この話、まったく素通りできません。僕も是非・・・」

  そんな訳で、卒業前にまたもう一つ、大仕事ができたようだ。

 

  そして、いよいよ、運命の日、オバアが国防軍が攻めてくると予言した、Dデイ=上陸作戦のまさにその日がやってきた。

  夏休み保養キャンプの真っただ中、この日はブルーノ氏のチャリティーコンサートもあって、保養の参加者、漁村などのボランティアの面々以外に、各地の反戦反核・反原発の志士たちも集まって、島はかつてない賑わいである。男たちは会場設営、女たちはお祭り気分で紅白おもちを作ったり、食事の準備で忙しい。だれもが“子ども革命独立国”の支援者・支持者で、この納瑠卍の浜のDデイに、不屈の抵抗作戦のため、義勇軍として闘志満々、はせ参じた人々である。

  テツオはこの日、クスノキ向こうの島の裏側、太平洋に面している小高い崖地で、海原からの敵艦の襲来を見張っている。それは、上陸可能な浜辺の方は、対岸が県の市街と漁港なので、軍の移動が目立つため、敵は太平洋から島の浜までまわり込んで攻めてくるのに違いないと、思われたからである。

  そのテツオが見張るさらにその上、嘉南岳を少し登った展望台にはユリコがいて、海原の水平かなたを見張っている。

 

  まさに真夏の真っただ中、燃えいずる緑の映える嘉南岳に、生命をたぎらすようなセミの声を背に受けて、テツオは午後の陽光をキラキラと輝かせている真っ青な大海原を見つめている。

  海風は凪へとはいり、海面はおし静まって、波も平たく、テツオが望む崖からはまるで金色の鏡のように、波間も何もとまって見える。

  -静かだ・・・。まるで時が止まったかのような静けさだ・・・。こんな平和な感じの日に、本当に軍隊なんか、攻めてくるのか・・・?-

  しかし、テツオがそんなことを思っているうち、頭上から“ピーッ”と険しい指笛の音が聞こえる。振り返ると、上の方からユリコが大きく手招きしているのが見える。

  急いで駆け上がってきたテツオに向かって、ユリコは遠く海のかなたを指し示す。

「テツオ、あれ見て! あの海の向こうの、はるか先!」

  テツオは手にする双眼鏡で、確認してみる。

  -あれは・・、タミが言っていたカネダケ製の国防軍の最新兵器“人工知能によるロボット戦艦”ではないだろうか・・?-

  実はこのDデイを臨んでの防衛会議で、タミがオスドロン以外にも、軍需企業のカネダケが世界の武器市場へと売り込んでいる最新兵器の数々を、逐一説明してくれたのだが、その中でだれもがあまりにバカげていると一笑に付し、問題外としたある兵器があったのだった。

「ユリコ、あれは確かに国防軍の軍艦だ。ついに来襲が始まった! 今からすぐに、作戦本部に知らせに行こう!!」

 

  二人はすぐに山から駆け下り、浜に向かって全力で走りだす。まず、木造校舎の理事長室に来襲を伝えるために。しかし、途中のクスノキで、ユリコは突然、テツオの片肘ひっつかみ、女の子とは思えない強い力で大樹の影へと引き込むと、テツオに飛びつく勢いで、熱いキスを投げかける。テツオは言葉を返す間もなく、ユリコと舌をもつれあわせ、激しい接吻を受けるのだが、やがてユリコは、テツオから唇を遠ざけると、彼の頬を両手で包み込むように押さえては、その燃えたぎる眼差しで彼の両目を一瞬捉えて、少しだけ頷いたかと思うと、すぐにその身を翻して、黒髪をなびかせながら、嘉南岳の麓の家へと駆け上って行ってしまった。

  炎天下の熱い夏・・、仰ぎ見る、クスノキの幹と枝先、幾重にも交わり合う緑の葉と葉の合間から、散らされる午後の木漏れ日・・。ユリコが放った、カヤツリ草のような澄んだ匂いに包まれたテツオはここで、再び耳をつんざくようなセミの音に呼び戻されると、浜に向かって走っていった。

 

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  テツオが理事長室へと駆け込むと、そこにはタカノ氏、校長と、参謀役のタミがいる。

「来ました! 敵の来襲です! まさに“この隻ひとぉーつ”(4)です!!」

  テツオはタミが言っていた、人工知能ロボット戦艦の写真を指さし、まさしくコレが現れたと言う。

  校長、この日はいつもの藍の剣道着でなく、りぬきに鶴をぬうたる直垂に、萌黄匂の鎧を着て、鍬形うッたる甲の緒をしめ(5)・・の武士姿。これはおおかた、軍事オタクのそれらしく、Tシャツに短パン姿でありながら、かっこいいナチス・ドイツの軍帽を被っている参謀役のタミにならって、校長もコスプレ屋から、ハレ着とばかりに借り出してきたのだろう。

「なんと、国防軍の来たりと申すか! 心得てあるぅ!!(6)」

  校長のこの一言で、“不屈の抵抗作戦”の火ぶたが切られる。

「あとは、事前に徹底の“防衛大綱・ガイドライン”マニュアル通り、この時ばかりはファシストも反面教師“心を一つに”(7)、各位行動するのみです!」

  参謀役のタミは早速、テツオに向かってハイタッチ。テツオは続いて教会へと走っていき、鐘楼を駆け上がると、国防軍の来襲を島全体へと知らせるため、これから長い先の鐘を一心に乱打する。

  島にいる男衆は、大いに気勢を上げながら、いざ鎌倉へと言わんばかりに浜辺へと集結し、女衆は紅白おもちの準備をやめて、子供たちを木造校舎に退避させ、着衣が乱れないようにと準備されたつなぎのデニムを着用すると、男衆の後に続いて浜辺へ集まり、前三列に後三列と各々が浜いっぱいに、座り込みの態勢を組み始める。

  テツオはタカノ理事長、校長ともども男衆の最前列へと座り込み、その後方にはタカノ夫人とレイコとが女衆の前列に座り込む。参謀タミとミセス・シン、その二人の娘とキンゴの5人は、教会の地下に設けたネット配信・中継室へともぐり込み、機器を起動させていく。

  実はこの抵抗作戦、非暴力を旨とするだけ、知恵と世論の味方が主力で、単に座り込むだけでなく、軍隊の暴力ざまを中継してインターネットで全世界へと発信し、国際世論に訴えて国家による暴力に抵抗せんとの作戦なのだ。浜のあちこちには隠しカメラが設置され、移動カメラはヨシノがかついで駆け回り、それを教会地下の中継室から、タミの解説、キンゴのルポと、また娘二人のサポートによるミセス・シンの同時英訳らをもって世界へと発信し、それを休日のローマで受け取るイゾルデ・アイ氏が、さらにまた世界各地の反戦反核NGOや良心的なカメラマン、ジャーナリスト、平和活動家などへとつないで、この“子ども革命独立国”の自由と独立、そして何より次世代の反戦反核への決意と意志を、国際的な良心で守り抜こうとするのである。

  そしてユリコは、当代のノロとして白装束に身を固め、オバアがこの日に呼び寄せた彼女の血をひく娘たち-同じく全員白装束に正装した歴代のノロとともに、この抵抗に参加する全員の無事と勝利を祈願するため、これより島で最も神聖な嘉南岳の麓にある御嶽にこもり、大護摩供へと入っていく。

 

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  さて、だれもが想定外だった、カネダケの“人工知能ロボット戦艦”。これはその名のとおり、人間型のロボットの上半身が、まるで一人乗りのカヌーみたいに、戦艦である船体の真ん中に突き出たスタイル-なのであるが、それが島の裏の太平洋より、県をはさんだ浜の正面へとまわり込み、今や白昼堂々と、納瑠卍の浜いっぱいに座り込む大衆の前方に、ついにその姿をあらわす!

  浜に設けた隠しカメラの数々と、ヨシノが手にする移動カメラが、この巨大なロボット戦艦の動く画像を次々と、教会地下の中継室へと送信してくる。これより参謀役タミは、その軍事オタクを活かして解説、それを作家のキンゴが渾身のルポを起こし、さらにまたミセス・シンが英訳して、世界に同時発信する段取りとなる。

  まず、タミが解説し始める。

「あれはカネダケが、武器輸出三原則の撤廃以来、開発してきた“水陸両用迎撃ミサイル戦艦”で、その名も“イージリ・アホカー”といいます。もとはといえば、アメリカが、北朝鮮のミサイル脅威を口実に、この国に一基1000億円と“言い値”で買わせたイージス・アショカーなどをネタに、その発展版と銘打って、カネダケはこれを世界の武器市場に売り込みたく、今日はさしずめお披露目として、この場に出してきたのでしょう。

  カネダケの経営陣はウルトラマン世代がいるのか、あのロボットの外見が“キングジョー”のパクリだとの指摘もあります。水陸両用としているのは、今は海面下に隠れていますが、あのロボットには足があり、船体を両手でつかんで持ち上げながら、下へと伸ばした足で立ち、二足歩行で陸上を歩くこともできるのです。」

  キンゴはタミの解説に、受験準備で鍛えている早書きでルポを打ちつつ、あの迫りくるロボット戦艦の来襲シーンに、BGM-ストラビンスキーの『春の祭典』-をあてはめる。彼はまた、インターネットで開催のBGM選手権に、今回の抵抗作戦を出品し、いずれきちんと編集しては『戦艦ポチョムキン』(8)みたいに映像化して、この中継システムへの投資を回収したいみたいである。

 

  浜辺に設けたスピーカーより鳴り響くBGM-その曲の流れにのって全貌をあらわした“イージリ・アホカー”。浜辺の座り込み隊が、恐れというより興味深げに見守るなか、ここで浅瀬に接したためか、迫りくるその航行が、ひとたび止まる。

  キンゴはパソコンの早打ちでルポを書きつつ、画面を見つめるタミに尋ねる。

「でさぁ、タミ。あの戦艦の迎撃用ミサイルって、いったい全体どこから出るの? 体の中から打つにしては、やけに安定悪そうだけど・・・」

「それは、あのロボット戦艦の、上半身のつけ根から、船首までの船体の前半部分に、タテに格納されています。」

  そこでタミは、座り込み隊へと語るべくスイッチを切り替える。タミの緊張した声が、浜辺のスピーカーを通じて、浜全体へと響き渡る。

「座り込み隊のみなさん、お疲れ様です。おそらく、これから国防軍は、まずミサイル一発、こちらへ向かって撃ってきます。でも、みなさん、ご安心を。このミサイルはその特有の外見による威嚇効果をはかるもので、もとより当たる落とすの類のものではありませんから。」

  タミが指摘するとおり、やがて停止中のアホカーの、ロボットの上半身のつけ根から、船首に向けて長々と、格納していたミサイルが、ムックリと立ちあらわれる。たしかにそれは、ミサイルといえばミサイルらしいが・・・、やがて浜辺はざわつき始める。

「・・あの形態といい位置といい、いい気な天狗の鼻よりも、はるかにリアルを極めとるで。」

「ピーンと勃って、先端もツルッと光って、ホンマもんとちゃうやろか?」

「ホンモンちゅうても、あれは鉄でできとろうが。血管に見えるのは、ありゃ配線か。」

「上へとあげていきよるごとに、チャリチャリいう音、聞こえてきよるで。」

「浜辺のカエルがみな大急ぎで、跳んで逃げていきよるで。」

「そりゃ、カエルにとっては青大将に、見えるんじゃろ(9)。」

  男たちはだいたいそんな感じだが、女たちは不快感やら拒絶感やらブーイングで、浜辺は一時騒然となる。だが、ネットの動画配信では、これで一挙に視聴率が上がったようだ。

  キンゴのパソコン打つ音も、一時とまる。

「タミ。あれって何? どうルポすればいいんだよ?! 下手すりゃ放送禁止用語に・・。」

「これは従来の安全保障のワクを超えた、海より深く、人間の業より浅いワケがあります。

  北朝鮮ミサイル防衛との口実つけても、飛んでくるミサイルをはたして迎撃できるのかは、あまりにも不確実。結局は役立たずでは、血税をまた利権のドブへと捨てただけで、迎撃どころか軽劇のお笑いにさえなりません。にもかかわらず、この国は、超1000兆円の借金や、社会保障費の高騰をも省みず、インドのように値引きの交渉さえもせず、“言い値”の1000億円をイイネと言ったか知らないが、アメリカからいつものように満額購入。売った側はアホカと思いっきりバカにしたとか。

  軍需の独占企業にして官僚たちの大口天下り先であるカネダケは、これに目をつけ、またそのままを商品名にこの新兵器を開発し、とにかくミサイル防衛とさえ言えば、前例どおり1000億でも政府がその値で買うことをすでに織り込み済みなのです。

  といいますか、これが軍産官共同体の実態であり、しょせん兵器というものは、ただ企業を儲けさせるためだけの張子の虎にとどまるもので、その国民がどうせ襲ってこないような仮想敵国の脅威でもってしょっちゅうビビるほどのアホでなければ、ただ国民を食いつぶしていくだけの軍需は成り立たないということを、カネダケは同じアホでも知るアホゥと、ちゃんと知っているのです。」

  タミの解説がそこまでくるや、イージリ・アホカはズドンと一発、ミサイルを発射する。それは島の上空を通り抜け、浜辺の皆が目で追うなかを、周辺グルリとブーメラン飛行をすると、ザブンと海へと飛び込んで、そのまま潜ってイージリ艦の船尾に達し、再びムックリ文字どおり、ロボット前部のもとのサヤへと納まったようである。

「なぁるほど。イージリ・いい尻というだけに、挿入-いや、そういうことか・・。しかし、タミ、それにしてもあのミサイル、撃って当たらず戻るのでは、ミサイルの意味も効果もないんじゃないの?」

「いや、そこん所が、キンゴさんらの進化論そのものなのです。つまり、そもそもミサイルとは、人間の威嚇と力による安全保障の最終形で、表現の不自由を突き破って表現した究極の男性原理=“人間のオスのペニス”の模倣物-といえるのではないでしょうか。

  つまり、北朝鮮の火星ミサイル、それが金星あるいは金玉という名になっても、しょせんは一発ワンスルー。それに比べてこちとらは何発でもデキるんだという、いわば男性能力の誇示なのです。迎撃といったって、どーせ当たるかどうかも分かんない。そもそも国内外の人民をビビらせて、権力が人民を搾取するのが目的なので、それなら相手をビビらせるため巨大化させた自らの男性に倣ったのです。」

「キンちゃん! よかったわねえ。英訳のあなた達の進化論を読んでいたアイさんが、休日のローマから、キンちゃん宛てにメールをくれたよ。しかも、習いたての母国語で。

  “おお道理。ベニス宮に立ったパワーも打破された。ファスケス(棍棒)はもう要らねえ!”って。」

  と、ミセス・シンもキンゴを励ます。

  ネットの画面をチェックしている二人の娘さんたちも、すかさず世界の反応を伝えてくる。

「ママとお兄さんたちィ~、世界中から怒りやら憤りが、メール、ツイートなどを通じて、どんどん政府に来ているみたい・・。ホラ、たとえば、これなんか・・。

  “世界中の権力と男性社会が、こうしたチンプなチ○ポの煩悩を、悔い改めようとしない限り、私たちの‘#MeToo’は終わらない”って。」

 

  しかし、このイージリ・アホカー、ミサイル一発撃ったあと、行為のあとでパンツをずり上げるかのように、ロボットの両手が下りて、船体の左右の縁をつかみながら船全体を持ち上げると、底から足が伸びてきて、前に後ろによろめきながら不安定さながらに、陸上仕様の二足歩行モードへと入ったようだ。

「おおーッツ!!」

  敵艦の来襲とはいえ、見た目のあまりのバカバカしさに、浜辺は物見遊山気分。歓声さえ上がりだす。木造校舎に避難した子供たちも、教育上は問題があるとはいえ、楽しそうに眺めている。

  だが、このイージリ艦、両足で立ち上がり完了と見れるや否や、船底が抜けたのか、さっきのミサイル一本まるごと、海へドブンと落としてしまう。

「あーあ、せっかく立ったのに、早や抜け落ちよったで。」

「あれならもう、役には立たんで。」

「まるで桶に落っこちた、ナスのヌカ漬けみたいやで(10)。」

  浜辺が拍子抜けするなかを、キンゴはかえって警戒している。

「タミ。あれはいったい、どう解釈すれば、いいんだよ??」

「あのミサイルの見た目というのが、大人のオモチャであることから、ミサイル内部に海兵隊を忍ばせて、突っ込ませては上陸させる-そんなトロイの木馬作戦かなと、見ることもできますが、これはより現実的に、いつものようなカネダケの欠陥商品と見るべきでしょう。

  というのは、見てください。あのアホカー、すでにいくつか部品を海へと落としていますが、本当に鋼鉄製なら沈むのに、その多くは浮いたままです。さっきの一発ミサイルでさえ、海にプカプカ浮いています。」

「本当だ・・。だから“海綿体”っていうのかな・・?」

「たしかに。こういう所に“#MeToo”を“to me”とさえ言い換えて、ますますセクハラ迫ってくる大企業カネダケの、男尊女卑に官尊民卑、ゾンビのようなその社風があらわれているのです。

  あれは品質管理に徹底的に手を抜きまくるカネダケ製鋼社のもので、おそらく中身はダンボール。カネダケは以前にもダンボールの混入が発覚した際、それは肉まんにも入れていた中国の中国製だと反論したとか。しかし、たとえ鋼鉄製だとしても、その品質たるやせいぜい広島から名古屋までもてばいい程度のものと、いわれています。」

  ところが、このイージリ艦、よろめきながらもズシンズシンと一歩ごと浜へと近づき、漁師たちが来襲にむけ、沖一列に停泊させた漁船の鎖を、やすやすと跨いで通り越してしまった。

「しまった! これで第1防衛ラインは、突破されてしもうたで。」

「いいや、何のこれしき。うちにはまだ第2防衛ラインが、ひかえとるがな。」

  そう、その通り。やがてイージリ艦は近づくうちに、漁師たちの第2ライン-沖一線に張り巡らせた漁業用の網につまづき、体を前に傾かせるや、ドスーンとそのままつんのめり、船首を浅瀬に突きさして、船尾を宙へと上げたまま、止まってしまった。

「プハハハハ。ぶざまにケツを上げよった! 尻ばっしょりにもならんじゃき。」

「わしらこの日に集まった、原発とめた阿波や土佐の男らをナメんなよ。」

憲法を改悪して法の網はすり抜けても、ほんまの網には引っかかる。彼らは今や軍隊=アーミーやからな。」

  しかし、このイージリ艦、船首を浅瀬に突っ込ませたまま、いっこうに動こうとしなくなった。

「タミ、あいつどうして動かないんだ? ミサイルもろともタマまで落ちて、はや“玉砕”とでも、言いたいのかな?」

「軍用兵器にあるまじきことですが、あのイージリ艦、実は後退ができないのです。」

「えっ?? それじゃ、あれ、イイシリとはいいながら、バックはダメっていうことなの?? じゃあ、前線出ても、全然役には立たないじゃん。」

  タミもさすがに困惑気味に解説する。

「カネダケは不正だらけで欠陥品を出し続け、技術大国の面目にドロ塗り続けるそのわりには、上層部が常に陰の“政治的”な金品のやりとりを欠かさないこともあり、万事親方ヒノマルで、愛国心を自負しています。ですから後退できないのは、欠陥品であると同時に、彼らにとっては愛国心のあらわれでもあるわけで、これはかつて撤退を転進と言い換えた皇軍や、あるいはさらに遡り、義経が“もとより逃げもうしては何のよかるべきぞ”と、船を後退させる“逆櫓”を不要とした故事(11)にならったものともいわれています。」

 

  しかし、文字どおり前進あるのみ、後退不能なイージリ艦は、そこで足を引っ込めて、船体を再び浅瀬につけ戻すと、いざり足かジリジリ前へとせり出して、船首をついに島の桟橋へと接触させる。

  第1、第2の防衛ラインを突破され、敵の上陸目前にして、物見遊山気分の浜辺も、緊張感が一気に走る。

  そしてイージリ艦の船首がパックリ開くと、そこからは迷彩服の兵隊どもが、次から次へと繰り出してくる。

「タミ、聞きなれない進軍ラッパの音頭にあわせて、兵隊たちが走ってくるけど、彼らが肩にかついでいる棒みたいなのって、いったい何なの?」

「まず、あのラッパは浜松の“遠州たこあげ祭り”のもので、彼らにとってこの上陸は、武力行使ではなくあくまでも“演習”という位置づけであり、これで世間の批判をごまかそうとしています。

  それで彼らが肩にかついでいる緑の棒のようなものは、銃剣ではなく、実はあれ“竹やり”です。」

「“竹やり”ィ~?? このステルス機や無人殺戮兵器の時代に、何でまた竹やりなのよ??」

「正式には、あれ“三八式竹槍”という、正気で平気かと疑いますけど、正規の兵器とされており、竹であるにもかかわらず、菊の御紋も入っています。

  国防軍に入隊した新兵たちは、足にゲートル、手に竹やりと、まずはしっかりゲートルを巻き、竹やりをピッカピカに磨きぬく訓練から始まって、少しでもホコリがあると、“陛下よりお預かりの誇り高きこの竹やりにホコリがあるとは惰弱千万”と上官のビンタがとんで、その一瞬、チク(竹)ッときて、その後、痛みがキク(菊)のだそうです。」

「新入社員の早めの募集を青田刈りっていうように、新兵に青竹って、これもシャレのつもりなの?」

  タミはこれより腰をすえ、納得がいくように、じっくりと解説する。

「いえ、竹であるだけ覗きにくく、また根の深いワケがあります。

  改憲で正式に発足した国防軍は、今度こそ本当に、戦後政治の総決算と、戦後レジームの総脱却を考えているのです。彼らは今や戦力なき軍隊とされていた出身母体の自衛隊を完全に過去のものとしたいのでしょう。で、その代わりに国防軍は、自分たちのルーツをまさに、あの1945年、本当は実現していたかもしれない本土決戦に求めたのです。つまり、あの時、本土決戦へと持ち込んで、ナゲヤリにならず、竹やりで戦えば、後のベトナム戦争みたいにアメリカに勝ってたハズだと、マジにそう考えているのです。だから、本土決戦の先陣を切るはずだったこの竹やりにこそ、国防軍はその健軍の精神を見るのでしょう。」

  タミのこうした解説は、敵に聞かれそうにない音量で、スピーカーより浜辺にも流れている。

「そんなわけで、この竹やり一本で、治安出動から敵機への突撃まで、何でもこなそうとする竹やり部隊への配属は、国防軍最高の名誉とされ、隊員には、竹細工師なみの細かい技能と、同調圧力なしでも進んで自己犠牲に向かえるほどの協調性とが求められ、それを彼らはバンブーダンスで身に着ける-ということです。」

「ねえ、タミ。しかし、これって単なる“竹”でしょ。防衛費は年々膨らみ、ずっと毎年5兆円を超えてるけれど、こんな竹まで軍需企業カネダケの、利権なの?」

「そうなのです! この竹やりでさえ、1本200万円もするのです! というか、この竹やりこそがカネダケの、水田のイネのごとき主産物、あるいは、本田のカブのごときヒット商品-なのだそうです。

  カネダケの創業者“金竹正”氏は、もとはといえば、四国は阿波の炭焼き職人。子供のころからその名のゆえに“コンチクショー”とか“キムジョンチク”とかイジメられ、そのトラウマが、長じた彼の青年期に、女性蔑視と家父長主義、人種差別と軍事礼賛、念仏ぎらいと権力への意志として結実した、立志伝を逸した人物といわれています。その彼が、太平洋戦争末期、本土決戦に備えると、吉野川流域の竹林を買い占めて陸軍に売却して財を成し、それで戦争利権に味をしめ、敗戦後も、朝鮮・ベトナムイラク戦争などを通じて、企業規模・売り上げともに急成長させ、同業他社の吸収合併を繰り返し、今日では、日用品から兵器まで-それこそ竹をいかしたトイレットの消臭剤から、トイレなきマンションたる原発に至るまで、一気に請け負う超多国籍企業へと相成った-というわけです。

  カネダケはそのロゴこそは“カネダケ”の一つですが、メーカー系の“金武”と、金融系の“金竹”という、ともに第二次第三次産業に君臨するこの二社の両輪で、系列その他の企業ならびに御用組合“連動”までいっさい含めて、この国をすっかり乗っ取り、国民を労働者としても消費者としても奴隷化をしていることは、今日でも男のスケベ週刊誌ネタぐらいには上がってきます。

  このカネダケ、法人税を消費税と同率の10%に改定させて、自分は研究開発費とか輸出による還付金とか大企業優遇税制を最大限活用しては税金タダを繰り返し、国は超1000兆円の借金があるというのにその内部留保は500兆円。賃上げ目標3%がいわれた時も、同じカネダケ出身の黒子氏を中央銀行総裁に起用させ、金融の異次元どころか多次元緩和と、あとはいつもの統計操作で、物価を無理やり3%上昇させては賃上げ効果を帳消しにするなどやりたい放題。3.11で原発が国内外で伸びんと見るや、今度は武器輸出で儲けようと、自衛隊国防軍に改めさせては、その海外派兵にともなってカネダケ製の武器をお披露目、世界市場へ売りつけようとの魂胆なのです。

  カネダケのこうした好戦的な社風や企業体質は、社員の人材育成-特に新入社員のそれに、もっともよくあらわれているといえます。なかでも“竹”は、破竹の勢いで前進してきた会社にとっては創業精神の権化であり、新入社員は国防軍への体験入隊などを通じて、竹のごとく猛々しく猛進し、竹のごとく根深いほどの根性をはれと、竹のごとくシゴかれる-とのことです。特に、孟宗竹なみにモーレツなのが、その高知県での合宿といわれるもので、社員らは、スポーツやゲームを通じてカツことだけをタタキ込まれ、辛いしんどい言おうものなら、“ヤキを入れ、タレはじめたら、塩をぬれ!”と、再度またカツォ、カツォとタタキ込まれるものだから、その暴力性は力士でもついていけない程であり、ウツや自殺も絶えないらしく、足摺岬の看板に“会社に殺されるくらいなら、会社を辞めてお遍路しよう”との新バージョンが登場したとか。

  しかし、そんな新人研修を生き残った社員たちは、今や別府や阿波の竹人形どころか、ゲップしてもアワもふかないターミネーター。竹のごとき我さきの上昇志向一色で、上は常に下からの突き上げくらい、社内はまるで常在戦場。好戦的で攻撃的、侵略的で植民的な社風がみなぎり、部下を斬るパワハラと、突くセクハラで社員はいつもハラハラして、またその部下が上司に密告するチクリや他人の企画や数字を盗み取るパクリも、シャックリみたいにクリ返されるといわれています。」

 

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  タミが解説しているうちに、国防軍の竹やり部隊は浜辺に整列完了し、波打ち際を背にしながら、前後各々三列と、浜いっぱいに座り込む不屈の抵抗義勇軍と、ほぼ同数で対峙する。

  座り込みの後三列の女たち、ここで黄色地に赤文字の“不屈”のボードを、両手いっぱい高々と頭上に掲げる。そして中から校長が、さっきの武士姿のまま、竹刀片手に一世一代の面持ちで、前へズイイと歩み出る。

「かように候者は、嘉南島の住人、安宅の左衛門にて候(12)。さても本国、原発事故後、空間線量20mSv、食料品は100Bq、廃棄物は8000Bq等により国民を被ばくさせたその上に、改憲につぐ軍国化と暴政の限りをつくし、子々孫々の生存権・生存圏の蹂躙をも省みず、保護養育の義務さえまでも放棄すれば、我々かく新しく独立の国をたて、それがしこの島あい守る。方々さよう心得てよかろう。」

  校長、名のりを上げたあと、竹刀をちょっと一振りあって、カメラを向いてキッとおさまる。

「見ればまた大勢の兵士たち。各々いかめしき姿にて、此度の上陸侵攻は、法の根拠のなきことはよもあるまじ。法的根拠を釈明されよ。これにて聴聞つかまつらん。」

  校長のここまでのセリフを受けて、居並ぶ竹やり部隊の中より、隊長めきたる男が一人、並み居る兵隊押しのけて、校長の面前へとまかり出る。

「いかにも。此度の進行は、先刻より通知のとおり、安保条約第6条の規定に基づき、地位協定第2条によることは、何の疑いもあるべからず。」

  しかし、ここで中継室では、ミセス・シンがタミに尋ねる。

「ちょっと、タミ・・。何であの隊長、よりによって校長のカブいた調子にあわせてるのよ??」

「もとより自衛隊時代から、国民は監視をされていたのですが、それが国防軍へと引き継がれ、この島にも工作員が忍び込み、校長のキャラクターとボキャブラリーとを、タレ込んでいたものと思われます。」

  校長、これより隊長ににじり寄り、さらに尋ねる。

「してまた、憲法の財産権の保障を無視し、米軍への基地供出のため、財産権第一の土地さし出せとは、いかなる義にや、ことのついでに問い申さん。ささ、何と。」

  隊長は、セセラ笑ってこう答える。

「事もおろかや財産権は、当のその憲法に“公益および公の秩序に適合するように法律で定める”とある(13)。“安保”こそわが国の最大の公益にして公の秩序たること言うに及ばず、空気のごとし。この島一つ踏み破り、基地へと化すのも何の難きことやあらん。この浜に集える貧民どもをことごとく打ち捕らえ、早々に官邸のご機嫌安んじ申すべし。」

  校長は語気を荒げて、さらに詰め寄る。

「またしても、宗主国のトラの威を借り弱いものイジメに徹し、ただお上におもねり、へつらい、忖度の奴隷根性。おのれもまたアイヒマンと知ったる上は、悪銃毒蛇はいうに及ばず、ここに並み居る国防軍の兵卒の一ッ人も通すこと、まかりならぬ!」

  隊長も言いかえす。

「ああらむずかしの問答無益。立ち退き渋って留まれば、一命にも及ぶべし。今や基地予定地のこの島に、いかように陳ずるとも、一ッ人も残すこと、まかりならぬ!」

  と、両人はげしく思い入れ、にらみ合う。

「言語道断! かかる不詳のあるべきや。この上は暴力に及ぶことなく、かのガンジーの行儀を受けて、これからは非暴力の限りをつくし、執拗に抵抗あるべし。方々、近う、渡り候え。」

  と、校長、座り込み隊に結束を呼びかけんとする所に、兵卒一人が走り出て、校長を逮捕せんと竹やりを振り上げる。

「いかぁに、そぉれなる侍ィ、止まれとこそーッツ!」

  校長、とっさに振り返り、それを竹刀で打ち払うと、続いて襲いかかってくる竹やり兵らも次々と、チャンバラよろしくパンパンパーンッと弾き飛ばして舞い上がる。

「校長センセー、がんばってぇぇーッ!」

「男伊達の総本山! 成田屋! 音羽屋! 高麗屋! おまけに松緑そっくりや!」

  浜辺の座り込み席からは、校長めがけて屋号が飛びかう。

  そんななか、これを世界に発信していた中継室で、ミセス・シンの娘たちが、また新たな海外からの反応をキャッチしている。

「ママとお兄さんたちィ~、今回はノーベル賞受賞者の三氏から、あいついで励ましのツイートが来てるから、順番に紹介しますね。

  まずは、チョーシ・ノムスキー氏。“酔いがさめるような感動。そしてまた酔いたくなる感動!”

  つぎに、ケララ・ムルギタリー氏。“スパイシーな感動に、またスパイスが欲しくなったわ!”

  そして、オーエン・カンザブロー氏。“中村屋!”・・・としか書いてないけど・・・。」

 

  浜辺では隊長が、校長へ意気込んで迫っている。

「やぁれ、非暴力とはいいながら、挑発にのり暴力ふるう煩悩鬼め。尋常に誅せられよ!」

  と、双方はげしく揉みあいとなる所を、校長、竹やり部隊に縄かけられて捕らえられ、浜辺の隅まで引きずられ、竹やりで作られた即席の仮説牢屋に蹴り入れられる。

  教会地下の中継室では、だれもがひとえに落胆のため息をついている。

「あーあ、校長、あれだけ見せ場を作ってあげて、世界に発信してあげたというのにさ、自分自身で発案の隊長に盗聴マイクを仕掛けるという肝心のミッションには、失敗をしでかすなんて・・・。」

「たしかに。先生、引きずられていく時に、“手もと狂ってはずされたーッ。あとはテツオ、よろしく頼むーッ”っていう声が、入ってましたね。」

「ということは、レイコさんがスペアのマイクを持っているから、あとはテツオが頼みの綱か・・。」

  校長のしくじりを受け、浜辺では座り込み隊後列のレイコがテツオを呼び寄せる。駆け寄るテツオは、レイコの手からスペアのマイクを渡されて、その手をまたレイコの両手でしっかりと握られる。そしてさらに耳元で何かを告げようとするレイコに、テツオは顔を寄せるのだが、隣の夫人に押されたか、はたまた不意の横風か、テツオがよろめき傾くと、その頬につけられていくやわらかな二重の印が、レイコの赤い唇に他ならないのを、彼の五感は感じとる。

  テツオはもうそれだけで喜び勇んで、ミッションを果たさんと、隊長へ突進しては体当たり。またも激しく揉みあいとなり、竹やり隊に同様に捕らえられ、続いて牢屋に蹴り入れられるも、-タミとは初キス、ユリコとはディープキス、おまけにレイコからは頬キスと、こんな来襲なら来週もまた来てほしい-と、彼は思っているのかもしれない。

  そして、中継室では、イヤホンをしたタミが、思わずここでVサインする。

「今度はうまくいきましたよ! 隊長の声、司令部からとおぼしき声も、彼についた盗聴マイクがこの中継室へとはっきりと伝えてくれます。これでこの不屈の抵抗作戦は、大きく勝利に近づきました!」

 

  陽はすでに西へと傾き、浜辺で焚かれるかがり火の炎は燃えて、対峙する座り込み隊、竹やり隊の各々の面魂を、夕日のなかで赤々と照らしはじめる。そしてこれより、キンゴはそのBGMを、ショスタコビッチ交響曲第11番の第2楽章へと切り替える。

  今や前面に出た隊長。ここで突如、“排除”の一声、号令を、轟かす。

  竹やり隊の兵士たち、いっせいに片手一指を宙へと突き上げ、“ハイジョ、ハイジョ!”と叫んでは、竹やりを担ぎながら、浜辺の左右すみからすみまでジグザグに駆け回る。だが、そんな威嚇は、

「あんたたち! いい大人のクセして上司に命令されたまま、まるでゼンマイ仕掛けの兵隊みたいに、ラッパにあわせて駆け回り、おのれの意思も知性もない! バッカじゃないの!!」

「税金つかって芸人みたいに筋肉きたえ、リゾートホテルに泊まりながら、土地を盗みに乗り込んで、やってることは暴力団以下のこと! 少しは恥を知りなさい!!」

「“公益によるハイジョ”って、“コイケによるハイジョ”と同じく、忖度男が集うもの。キボウの同盟、キボウの党と、安保をめぐる同じ“鬼謀”という口の、へつらいどもの行く果ては、アメリカ軍の二軍落ち! さっさとこっから出ていきなさい!!」

  と、女たち、ママさん、おばさんめいめいに、クソミソに貶されるがままに不発に終わる。

 

  しかし、次の“ハイジョ!”の号令で、駆け回っていた兵隊たちは素手をからめて、座り込みの最前列の男衆へと襲いかかる。

「テメー、コノヤロ、コンチクショー!!」

土人、シナ人、ハゲチャビン!!」

「ハゲーッ、ハゲーッ!!」

「座り込め、ここへ! いざ、ここへ、座り込めぇェ!!」

  そうした怒号の飛びかうなか、男衆、互いに組手と組足とを強固にして、重心落として腰をすえ、地表に根差して座り込むのを、いかに屈強な兵士とはいえ、素手ではとても動かし難し。兵士ども、ここは下がって竹やりを再度構えて一列になり、隊長の次の“カバヤキ!”一声、号令で、また同様に“カバヤキ、カバヤキ”と叫んでは、座り込んでる男衆の地面の下へと、竹やりを次々と突き入れる。

  タミはいよいよ緊張した面持ちで、画面を見ながら解説する。

「これからが、竹やり部隊の本領発揮となるところ。隊長の号令は秘密保持の観点から、すべて隠語でなされますから、我々の想像力も試されることになります。」

  兵隊どもは地面に刺した竹やりを、ジリジリとテコの原理で地表ごと持ち上げて、座り込み隊の体勢くずしにかかってくる。そして男衆の組手にすき間ができたと見るや、後列の兵隊がそこにまた竹やりを次々と突き入れて、座り込み隊の一列に竹やりが刺しそろったと見た所で、今度はそれをいっせいにひっくりかえすというふうに、人間を列ごと仮説の牢屋へと持っていこうとするようだ。

「なるほど・・、たしかにこれは見た目には、ウナギのカバヤキに似てるよね・・。」

  移動カメラマン役のヨシノは、ここで思いっきり浜辺の向こうに駆け抜けてまわり込み、その真横からの映像を配信してくる。見ればそれは竹やりがじかに人体を刺し抜いているかに映り、これはかつての“刺突訓練”を思い出させるかのようだ。

「ママーッ! 国連と各国からは批難轟々、雨あられの抗議が来ていて、中国首相の周来恩氏は、シャンシャンを返せって。その代わりにライオンをやるんだそうよ。」

「また、北京と上海の大使館や領事館には、市民による抗議デモで、次々と火炎ビンが投げ込まれ、デモの中にはこんな垂れ幕もあるんだって。“原発事故をゴマかすために、またセンカクを利用した。国有化する何億ものカネがあるなら、なぜ被ばく救済に使わない??”って。」

  しかし、ついに座り込み隊の一列目は、無残にも解体されて排除され、皆ことごとく仮説牢屋へぶち込まれる。だが、まだ座り込み隊には、男衆の二列目と三列目、そしてその後に女衆の全三列と残っている。

「隊長ぉオ! お前こそ地獄に落ちろぉオ!!」

「権力のイヌ、忖度のイヌ。まさにお前ら“イヌ、アッチイケー”だ! これを早口で言ってみろ!!」

  と、罵声と怒号の渦巻くなかで、竹やり隊はこの先も、このカバヤキ戦をやるのだろうか。

「いいえ。座り込み隊の一列目の皆さんには大変でしたが、この一連の暴力的非人道的住民排除が全世界へと発信されて、国際世論はこれで完全に我々の味方です。権力はもうこれ以上、いかに人権意識がないこの国とはいえ、手荒なマネは続けられず、カバヤキゆえに空気と匂いを読みながら、加減を調節してくるはずです。」

 

「“手荷物アライバル!”」

  隊長がまたヘンな号令を出すや否や、浜辺にいる兵隊たちは波打ち際に、仮説牢屋がある所まで二列に並んで整列する。そして竹やりを地面に置いて、それを二本の線路のように敷きつめると、またその上を転がるように横向きにローラー状に竹を置き、その両側の所々に二人一組で立ち並び、竹の線路をはさんでの整列が完了する。

「ちょっと、タミ。あれって何なの?? 解説なしではわからないよ。」

「あれは飛行場の到着時の、手荷物受取場をイメージした作戦と思われます。あの竹の線路のローラーに竹で作ったイカダみたいなトレーを置いて、その上に人間を乗せ、左右二人の兵隊たちが交互に順に押しまくり、まくりまくって仮説の牢屋に放り込もうとするのでしょう。竹やり隊はこのように、現場で臨機応変に精巧な工作技能が求められ、そのため竹細工で有名な別府や徳島出身の郷土兵士が優先的に起用されるということです。」

  やがて座り込み隊男衆の二列目も、カバヤキで体勢を崩されると、兵士らに取り囲まれて担ぎ出され、この即席の竹のローラーコースターで、次から次へと牢屋へと放り込まれる。このままで効率的にハイジョが進むと浜辺には不安が募るが、防風林の間から覗いていた子供たちには、何だか楽しい乗り物に見えてるようだ。

 

  二列目を排除し終えた竹やり隊、いよいよ男衆の三列目へとかかってくる。しかし、その中央には、何と迷彩服姿の体のゴツい外人の男たちが陣取っていて、ミセス・シンの娘たちは、その真ん中にブルーノ氏の姿を見とめる。

「ママー、パパがあんな所に同じナリのおじさん達といっしょに居るよ。パパは今隊長さんに何か言ってるみたいだけど、いったい何を言ってるの?」

「パパはね、“自分たちはアメリカ兵だ。だから排除はできないはずだ”って、ガンバってんのよ。」

「エッツ?! シンさん、夫のブルーノさんって、実は米兵だったんですか??」

「そンなことあるわけないでしょ。あの人、アメリカそのものは別としても、米軍と米国政府は大ッキライときてるんだから。あの人たちはね、ブルーノさんのコンサート仲間で、ゴスペル歌う北欧の人たちなのよ。たまたま来日している時に、親交のあるブルーノさんからこの島のことを聞いて共感し、彼といっしょに県のコスプレ屋で米軍に化け、いっしょに座り込んでくれているのよ。」

  しかし、一般市民の排除の最中、突如として出現した米兵たちを目前にして、竹やり隊は行動をいったん停止。隊長は、想定外ととまどいながらも、司令部とやりとりをしている模様。

「タミ、隊長の盗聴マイクで、何かひろえる?」

「隊長はですね・・、米軍への基地供出との成り行き上、ミュージシャンのおじさん達を本物の米兵と思い込んでるようですが・・、問題は、人民といっしょになって座り込んでる米兵が“公務中と見なせるか、見なせないのか”-その判断を司令部へと求めていて・・、司令部は、“仕事なのかバカンスなのかはわからないが、ここは迷彩服を着ているという外形標準説に従って、公務中と見なし得る”-との回答をしてきています。」

  盗聴マイクを慎重にひろいながら、タミは解説し続ける。

「隊長はですね・・、公務中の米兵を自分が指揮命令することはできない-と、司令部に訴えているのですが・・・、司令部が関連部門に問い合わせても、外務省も防衛省も、“米兵は酔ッパライならあり得るが、座り込みの米兵など、トモダチ作戦でも想定外”と逃げ回り、また在日米軍当局にも、“イースターか何かじゃないか”と、ただあざ笑われて切られたそうです。

  隊長はですね・・、今までは丸腰の一般市民を相手にしてエラソーにしていたクセに、これで早や怖じ気づいたか、撤退の可能性を司令部に打診したようなのですが・・、これも早や司令部に、“皇軍の栄誉を担う竹やり部隊の威信にかけて、米兵目前に一ッ人も退くことまかりならぬ!”との回答です。」

「ママー、隊長さん、わがまま達の板挟みで半泣きしているよ。憎たらしいけど、かわいそう・・。」

「アッツ! 司令部からの新しい回答です! “新ガイドラインの規定(14)によると・・、我が国に対する武力攻撃・・、国防軍島嶼に対する陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する・・、米軍はこれを支援し補完するための作戦を実施する・・とあり、これを解釈するに、米兵たちはいかにも我々国防軍を支援し補完しているように見えさえすればよいのであるから、そう見えるようにミュージシャンのおじさん達をイージリ艦へと保護しご案内するように”-そう命じてきています!」

  にらみ合う国防軍の竹やり隊と米兵の、同盟国とされている双方の兵士たち。いくら米兵が暴力を繰り返す存在とはいえ、まさか米兵に乱暴なことはできず、カバヤキではない竹やり隊の次の手は・・。

「アーッツ! あれは・・。“竹やりホイホイ”の登場です! ついに出たか・・。」

  見ればテカテカと茶黒く光る竹やり一本、兵士に担がれ現れる。

「何だよ、タミ。その“竹やりホイホイ”っていうのはさ?」

「“竹やりホイホイ”っていうのはですね、いわゆる生物兵器なんですけど、生物兵器は国際的に禁止のはずで、僕はこれは特定秘密と思うんですけど・・。外人のおじさん達は北欧の出身ですから、見たこともないあの生物には、強烈に反応するかも・・・。」

  見れば担いだ兵士がその一本の竹やりをよく振ってから、外人たちの目の前にコトリと下ろすと、先端がパクリと開かれ、そこから多くのゴキブリたちが走り出る。

「WAHHHHH!!!!」

  外人たち、座り込むのを振りほどき、我先に逃げ惑うのを、竹やり隊の兵士ども“保護支援!”と叫びながら取り囲み、いつの間にか着いていたジープの後部に押し込んで、イージリ艦へと連れていく。

「お神輿!」

  隊長の次なるこの号令で、竹やり隊は一人残ったブルーノ氏のその巨体を、四方から竹を井の字型にして囲んで持ち上げ、底には竹の格子をあてがって、まさにブルーノ氏を仏像よろしく神輿のごとく担ぎ上げては、ジープの後部に押し込んで、連れ去っていったのだった。

「ママー、パパのことを本物のアメリカ兵と思っているのか、激怒したアメリカのトランポリン大統領が、いつもの跳んでるツイッターでこんなこと言ってるってさ。“リメンバー・パールハーバー横田基地から今すぐにも首都圏を制圧させる!”って。」

  そして、ミセス・シンの娘たちは、またもう一つ見つけたようだ。

「ママー。彼、今ゴルフがなくてヒマなのか、すぐにこんな追伸をアップしたって。“1945年、天から死の灰が降ってきた。そして今日われわれは、右手にオリズル、左手に核ボタン入りケースをたずさえ、再び天から舞い降りよう”って。」

「でも、それは、彼が悪口言っていた前任者が、すでにもう済ませたことよ。」

  だが娘たちは、さらに多くの情報が、続々と寄せられるのに追われている。

「ママとお兄さんたちィ~、この島って今世界に同時中継されてるからさ、国連や各国からの反応が続々来ていて、政府への抗議や批難がおさまらず、外交問題になっているのか、政府もついにコメントを始めるみたいよ。まず、いつものゾンビの眼差しのカス官房長官の発言だってさ。“一部に誤解があるようだが、我が国では神輿は神が乗るもので、まさにこの行動は、米軍こそは神様です-との我が国の総意のあらわれ”-なんだとさ。

  あっ、でも、トランポリン氏は、今はゴルフ場でファーストフードを食べながら、こんなツイート返したそうよ。“私はそんなお神輿みたいな宗教などには興味はない。だから私はエルサレムを首都と宣言できたのだ。それに第一、トウキョウが、いったいどこの国の首都だというのか?!”」

「あっ、今から始まる7時のニュースで、ちょうどこの島のことやるみたいよ。」

  と、中継室のパソコンには、TV画面が映し出される。

「・・いつものように首相がアップで出てきたけど、何やらメッセージのようなもの、発するみたいよ・・。

首相、今、口にしているのは、マイクかな?」

「いえ、あれは彼の“おしゃぶり”です。」

「じゃあ、今、手にしているのが、マイクなのかな?」

「いえ、あれは彼がお気に入りの戦闘機のオモチャです。・・どうも、こうしたものが、手離せないお方のようで・・・」

「あっ、それでも隣の秘書官がカンニングペーパーみたいなものを手渡したから、今から何かメッセージ、発するみたいよ。-“わ、わぁ国は、べ、べぇ国と、緊密ゅうに連携をとりぃ、というかですね、言われる通りに言うこと聞いて、Qィた朝鮮の脅威に対して、最愛げんの圧ぅ力を、加計つづけてまいぃますゥ。”-・・・何だ、いつものセリフで、この島のことじゃないよね・・。

  アーッ!! でも、ここ! この画面の下の方、ちょっと見てえッ!!」

  ミセス・シンが指さした画面には、上空から撮影中のこの島と、そこに漂着したような木造船みたいなものが、ドアップで映し出される。

「エッ?! これって確かにこの島ですけど・・・。アァーッ!! この画面、よぉく見て下さいよ。この映し出された木造船って、竹やりを組み合わせたダミーですよ!

  きっと兵隊たちは竹やりで、座り込みの男衆を閉じ込めた牢屋に接した船形を、急ごしらへにこしらえて、いかにも北朝鮮の木造船が漂着して不法入国しようとするのを、海上保安庁が取り押さえているかのように、メディアがそのまま言われた通りに全国放映してるんですよ。」

「首相、それでアイツ、今、何言ってるのよ? -“こ、このよおに、Qィた朝鮮は、わぁ国の美ゅくちぃ領海と領土とを、またしても不法ぉに侵犯しィたものと思われ、わぁ国としましては、引ぃ続き最哀の恫命国であぅ、べぇ国と連刑しあって、Qィた朝鮮に対しても、また、ジジィソミアを放り出した隣のバKAN国に対しても、Qィ然とした圧力を、加計つづけてまいいますゥ。”-

  首相、いつものように何でも北朝鮮の脅威のせいにし、また、何かにつけて韓国の悪口さえ言ってれば、選挙に勝てるし支持率も上がると思ってさ、こいつ、本当に、アホだよねえ!」

「しかも、このメディアって、かつて“政府が右なら左に寄れぬ”みたいなこと言い、きわどい所で右にばかり寄っていると、また八百長って疑われるから、攻められるのはやはり北と、これでまた政権に忖度したかもしれません。」

  しかし、中継室がそんな話をしているうちに、座り込み隊の男衆は三列目までついに全員排除され、あとは防風林前に座り込む、全三列の女衆を残すのみとなってくる。

 

  男衆をことごとく片づけた国防軍の竹やり部隊。あらためて、浜辺いっぱい横一列に勢ぞろい。ここで竹やりを前へと突出し、女衆の座り込み隊列へと、いっせいに突撃を開始する。

  女たちは一様に“ヒャー!”と言って顔を伏せるが、不思議やふしぎ、次の瞬間、突撃してきた竹やり兵士、まるで異次元へといったみたいにフゥッと消えて、一人残さずいなくなる。

  女たちが、ただボーゼンと打ち眺めるなか、浜辺にはただ海風が、ビョーッと吹きすさんでいくばかり・・・。

「ヤッターッ! これで完全一網打尽。竹やり部隊は全滅よぉッ!!」

「これぞ第三防衛ライン。浜辺に掘られた横一列の大落とし穴。アイツら女性と見くびり油断したのか、全員みごとにこの浜に、ハマりましたね!!」

  そう! 国防軍竹やり隊は、浜の東西一列に掘りぬかれた塹壕みたいな大落とし穴に、部隊全体ゴッソリと、落っこちてしまったのだ。

  しかも、このお堀のような落とし穴、ただの落とし穴じゃない。その中には、白い粉が敷きつめられて、兵隊どもは顔も体も粉だらけ。そして穴の上からは、防護服姿の女たちが、兵隊めがけて次から次へと白粉を投げ入れる。

「これがお前たち権力が、あたし達を被ばくさせた“死の灰”だァーッ! これでも喰らえーッツ!!」

  そして最後にガイガー計とおぼしき物が放り込まれ、計測限界はるかに超えて、針も宙へとぶッ飛んで、“ピィイーッツ!”と激しくつんざくように鳴り響く。

  堀に落ち、白粉まみれの兵士たち。これで自分も“ただちに影響する”ほど被ばくしたと、阿鼻叫喚の地獄絵となり、次々と、オゥト、オゥトと吐きまくる。

「シンさん・・・、あの白い粉って、まさか、ホントに、“死の灰”ですか?」

「いーえ、あれは紅白おもちのカタクリ粉で、ガイガー計はキッチンタイマー。あんなのにダマされちゃって、網でなくても軍隊は、よくかかるのねぇ。」

「でも、カタクリ粉で、まるで急性放射能中毒みたいに、何であんなにオウト、オウトと自動的に、吐くのでしょうか?」

  そこはタミが解説をする。

「あれはおそらく、不安定なイージリ艦の船酔いのせいなのでしょう。船から下りて薬がきれて、だれか一人がもどしたら、かえるバスでもよくあるように皆ゲロゲロとやりまくるのと同じです。

  しかし、ひょっとするとあの兵士たち、給食にもBqがあるのだから、ミリメシでもしょっちゅうBq食っていた-のかもしれない。でも、隊長は、ここでも本気にしているようで・・・。」

  見れば隊長、浜辺に一人立ちすくみ、取り残された面持ちで、不安げにも司令部へとSOSを発しようとしている模様。タミは盗聴マイクから、隊長の訴えをひろいあげる。

「隊長はですね・・、司令部に安定ヨウ素剤の緊急配布を求めていますが、司令部は、“ただちに健康に影響はない。100mSv以下は安全安心、外で遊んでいてもよい。笑っておれば放射能の方から来ない!”と回答していて、隊長は、“そんな国民ダマシのこと、我々軍には通用しない!”と、ここで初めて司令部に反論をしています!

  しかし、司令部は、“ガダルカナルインパールの教訓どおり、軍隊は国民はもとより兵士でさえも守らぬもの。貴官もこの国の文化と伝統、前例そして忖度をわきまえながら出世した軍人ならば、ここは天皇陛下のために、竹とはいわず桜のごとく、戦地の花と心得て、いさぎよく散って死ね!”と命じています。」

「ママとお兄さんたちィ~、隊長さん、また泣いてるよぉ。あーッ、それで隊長、堀に落ちた兵隊たちに、何か水のようなもの、かけ始めたよ・・。」

「まさか、ガソリンかけて、トリ・インフルエンザみたいに、焼却処分する気かしら?」

「いいえ。あれは別れの盃を振りまいているのです。司令部からの命令は、殺処分ではなくて、兵士たちに、“ただ竹やりでもっと深く穴を掘れ!”と言っているにすぎません。

  おそらく司令部は、被ばくした兵士ら全員、放射性物質と化したと見なして、彼ら全てを指定核廃棄物として、あの落とし穴を深く掘らせて生き埋めとし、そのままここを中間処分場とするものと思われます。いわばあの兵士たち、ここを己の死に場所として、文字どおり自ら墓穴をボチボチと掘らされているのです。」

 

  ということは、竹やり部隊はこれで全滅。非暴力をつらぬき通した市民側の全面勝利と思いきや、イージリ艦からまた続々と、二軍とおぼしき竹やり兵らが、進軍ラッパの音頭にあわせて走らされてやって来る。

  隊長、ここで改めて、再び波打ち際を背に並び終えたる続・竹やり部隊の面々に、号令一声、打ち放つ。

「“七つ橋”!」

  新部隊、竹やりを組み合わせ、七つの足かけ即席“橋”をただちに作る。そして、自らここ掘れワンワンと、イヌのごとく上の言うままただ墓穴堀りにまい進している先輩兵の頭上を越えて、堀をまたいで橋をかけ、次々と渡っては、女たちの正面へと、また一列に並び立つ。

  ここまで来れば、座り込みの女たち、今や第三の防衛ラインも突破され、絶対絶命となってくる!!